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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)10357号 判決 1970年9月07日

主文

被告らは各自原告に対し金七八万四五七七円およびこれに対する昭和四二年一〇月六日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の、その余を被告らの、各負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

一  被告らは連帯して原告に対し三七〇万二四五六円およびこれに対する昭和四二年一〇月六日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二請求の趣旨に対する答弁

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第三請求の原因

一  (事故の発生)

原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一)  発生時 昭和四二年一〇月五日午後五時一五分頃

(二)  発生地 東京都世田谷区池尻三丁目十九番一〇号先路上

(三)  加害車 自家用乗用自動車(品川五さ七四四号)

運転者 被告山田

(四)  被害者 原告(歩行中)

(五)  態様 横断歩行中の被害者に加害車が衝突。

(六)  被害者 原告は骨盤骨折その他の傷害を受け、昭和四二年一〇月五日から昭和四三年四月二六日まで古畑病院で入院治療を受けた。

二  (責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

(一)  被告会社は、加害車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(二)  被告山田は、事故発生につき、前方不注視の過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条の責任。

三  (損害)

(一)  治療費等

1 治療費

古畑病院支払分 三三万一六二〇円(被告山田支払の昭和四二年一二月二〇日までの治療費三一万五四二三円の他)

付添看護料 二一万六二五七円

マツサージ代 二万七〇〇〇円

2 入院雑費 一〇万五〇〇〇円

(二)  休業損害

原告は、右治療に伴い、次のような休養を余儀なくされ五三万八八七六円の損害を蒙つた。

(休業期間)

昭和四二年一〇月五日から昭和四三年一〇月一五日まで。

(減収)

1 昭和四二年一〇月五日から昭和四三年一〇月一五日までの一二ケ月半の給料 三八万八八七六円

2 昭和四三年六月および一二月のボーナス 一五万円

(三)  慰藉料

原告の本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情および次のような諸事情に鑑み二五〇万円が相当である。

原告は大正一五年生の独身の女性であり、未だ結婚したことがないが、本件事故により骨盤骨折により受胎能力を失われ、女性として今後の生活に全く希望がなくなり、精神的苦痛は図り知れないものがある。

四  (結論)

よつて、被告に対し、原告は三七一万八七五三円を請求しうるところ、そのうち三七〇万二四五六円およびこれに対する事故発生の日の翌日である昭和四二年一〇月六日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四被告らの事実主張

一  (請求原因に対する認否)

第一項は認める。

第二項中、(一)は認め、(二)は否認する。

第三項中、被告山田が治療費三一万五四二三円を支払つたことは認め、その余は不知。

二  (事故態様に関する主張)

本件事故現場の道路幅は六米しかなく、加害車の対向車が交差点の信号を待つて列をなしており、加害車の進路左側には、交差点から約二三米の地点に、車道に〇・六五米張り出し歩道に乗り上げるようにして駐車していた自動車があつたため、被告山田は対向車に注意を払いつつ道路の中央寄りを進行して行かざるを得なかつた。

被告山田は、右交差点を淡島通り方面へ右折した直後、停車中の対向車の陰から原告が走り出して来たのを認め、直ちに急制道の措置をとつたが、僅かに間に合わず、原告に衝突した。

(一)  免責

右のとおりであつて、被告山田には運転上の過失はなく、事故発生はひとえに被害者原告の過失(横断歩道が近いのに、横断歩道以外の所を横断した過失および車の直前直後を横断した過失)によるものである。また、被告会社には運行供用者としての過失はなかつたし、加害車には構造の決陥も機能の障害もなかつたのであるから、被告会社は自賠法三条但書により免責される。

(二)  過失相殺

かりに然らずとするも事故発生については被害者原告の過失も寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

第五抗弁事実に対する原告の認否

原告の過失は争う。

第六証拠関係〔略〕

理由

一  (事故の発生)

請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。

二  (責任原因と被害者の過失)

(一)  被告会社が加害車を自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

(二)  被告山田の過失について判断する。〔証拠略〕によれば、本件事故現場付近の道路状況は、車道の幅員が六・〇米で両側に各二・五米の歩道があり、車道はアスフアルト舗装で速度制限は時速四〇粁であり、市街地で交通は幅輳しており、路面は良好で、本件衝突地点より南方二二・三米の所には、渋谷から三軒茶屋方面へ通ずる玉川線の軌道数のある通りとの交差点北側の横断歩道があること、本件事故当時は右交差点の赤信号のため淡島通り方面から南進する車(すなわち加害車の対向車)は停車していたのであるが、加害車は渋谷方面から右交差点を右折し淡島方面へ向つて時速約二五粁で前記横断歩道北端から約一五米進行した際、加害車の前方約七米の地点を停車中の対向車の間から原告が、東から西へ横断して来たため、被告山田は直ちに急制動の措置をとつたが、原告に衝突したことが認められる。なお、原告が馳け出して来た旨の被告山田本人尋問の結果は原告本人尋問の結果に照らし措信できない。

右事実によれば、被告山田には、前方および右方の安全を充分に確認しなかつた過失が認められる反面、原告には、横断歩道が約二二・三米の所にあるにも拘らず横断歩道以外の場所で、しかも停止中の車の間から右方の安全を確認することなく横断を開始した過失が認められ、両者の過失割合は、原告が七、被告山田が三を以つて相当と認める。

(三)  右の如く、被告山田に過失が認められるので、被告会社の免責の抗弁はその余の点について判断するまでもなく失当である。

三  (損害)

(一)  治療費等

1  治療費

(1) 古畑病院

被告山田が昭和四二年一二月二〇日までの治療費三一万五四二三円を支払つたことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、原告は古畑病院にその後の治療費として、三五万八一一九円の債務を負担していることが認められる。

(2) 付添看護料

〔証拠略〕によれば、原告は昭和四二年一二月四日から昭和四三年四月二六日まで、入院中家政婦を依頼し、二一万六二五七円の支払をしたことが認められる。

(3) マツサージ代

〔証拠略〕によれば、原告は本件傷害の治療のためマツサージ代として二万七〇〇〇円を支出したことが認められる。

2  入院雑費

原告の入院期間は、請求原因第一項のとおり、昭和四二年一〇月五日から昭和四三年四月二六日までの二〇五日間である。入院期間中、少くとも一日当り二〇〇円の雑費を必要とすることは公知の事実であるから、右期間中の雑費は少くとも四万一〇〇〇円は必要であつたものと認められる。

(二)  休業損害

〔証拠略〕によれば、原告は事故当時、三菱電機株式会社相模製作所に勤務し昭和四二年一〇月五日から昭和四三年一〇月一五日までの欠勤期間中、給料三八万八八七六円(昭和四二年一〇月から一二月までの三ケ月分八二七一〇円と昭和四三年一月から一〇月一五日までの一二ケ月半の一ケ月三二二二八円の割合による三〇万六一六六円)を得べかりしところ、本件事故のため右給与を得られなかつたことが認められる。

しかし、本件全証拠によつても、賞与の減収についてはその額がいくらであるかは確定できないので、賞与損については慰藉料算定に際して斟酌することとする。

(三)  過失相殺

以上(一)(二)の合計は、一三四万六六七五円であるが、原告の前期過失を斟酌すれば、そのうち被告らに賠償せしめるべき金額は、四〇万円を以て相当と認める。

(四)  慰藉料

〔証拠略〕によれば、原告は退院後約二ケ月は自宅で毎日マツサージを行ない、その後暫くは毎日通院し昭和四五年七月現在なお通院治療中であることが認められ、右事実および本件事故の態様、傷害の部位・程度その他諸般の事情を総合勘案して、原告の慰藉料は七〇万円を以て相当と認める。

(五)  損害の填補

被告山田が治療費のうち三一万五四二三円を支払つたことは当事者間に争いがない。

四  (結論)

よつて、被告らは連帯して原告に対し、七八万四五七七円およびこれに対する不法行為の日の翌日である昭和四二年一〇月六日以降支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、右の限度で原告の請求を認容し、その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 篠田省二)

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